コラム

なかなか治らない慢性の下痢は胆汁が原因かも?

【このページの内容は自費診療です】

注:このページの内容は、保険診療で腹部の精密検査を受けたものの異常がみられない方を対象にしています。

~下痢と胆汁酸の関係とは~

「検査では異常がないのに下痢が何年も続いている」

「急に激しい便意に襲われて、外出できない」

このように、慢性的な下痢に悩んでいる方は少なくありません。

実は近年、こうした原因不明の下痢の中に

胆汁酸性下痢(Bile Acid Diarrhea:BADという病気が多く含まれていることがわかってきました。
欧米の研究では、慢性下痢の患者の約3人に1人にこの病気が見つかるとも報告されています。

また、下痢型の過敏性腸症候群(IBS-D)の患者の中でも、約25〜30%が胆汁酸性下痢の可能性があると言われています。

つまり、

「原因がわからないのでIBSだと思っていたら、実は胆汁が原因だった」
というケースは決して珍しくないのです。



そもそも「胆汁酸」とは?

胆汁酸とは、肝臓で作られる物質で、食べ物に含まれる脂肪を細かくして、体に吸収しやすい形にする役割があります。
健康な体では、胆汁酸には次のような「リサイクルシステム」があります。

  • 分泌: 食事をすると、肝臓から小腸へと送り出されます
  • リサイクル: 小腸の末端まで来ると、その約95%が再吸収され、血管を通って再び肝臓に戻ります
  • 大腸への流入: 大腸に流れていくのは、全体のわずか5%程度です

このリサイクルが正常に行われている限り、胆汁酸が体に悪影響を及ぼすことはほとんどありません。




下痢が起こるメカニズム ― 胆汁酸の「暴走」

ところが何らかの理由でこのリサイクルがうまくいかなくなると、大量の胆汁酸が大腸へと流れ込んでしまいます。

これが「胆汁酸性下痢症(BAD)」の正体です。

大腸に流れ込んだ胆汁酸は、腸の壁を刺激して以下の3つの現象を引き起こします。

水分の分泌: 腸の中に大量の水を染み出させ、便を水っぽくします。
腸管運動の加速: 腸の動きを異常に早め、便を急いで送り出そうとします。
粘膜の刺激: 腸のバリア機能を弱め、刺激に敏感な状態にします。

その結果、爆発的な水様便や強い便意(切迫感)が生じ、生活の質(QOL)を著しく低下させるのです。

 
 

大腸に大量の胆汁が流入する理由とは

本来なら5%程度しか大腸に流入しないのですが、それを大きく超えて流入する理由としては、以下が考えられます。

  • 腸でうまく再吸収されていない(胆汁酸吸収不良)。
  • 胆汁が作られ過ぎている。

この現象が起こる原因はいくつかありますが、特に注目したい研究をご紹介します。


胆汁酸の吸収を邪魔する「Ruminococcus gnavus」の存在

ある研究(Hillman et al., 2025)によると、BAD患者さんの腸内ではこのR. gnavusが異常に増えており、腸の表面に「バイオフィルム」という粘液の膜を作り出すことが示唆されています[1]。

このバイオフィルムが小腸の吸収ポイントをベタっと覆ってしまうことで、物理的なバリアとなり、胆汁酸が再吸収されるのをブロックしてしまうのです。
行き場を失った胆汁酸は、そのまま大腸へと流れ込み、激しい下痢を引き起こします。


リサイクル信号(FGF19)の撹乱

体には胆汁を作りすぎないようにする仕組みがあります。
小腸で胆汁が吸収されると、FGF19というホルモンが作られます。
このホルモンが肝臓に

「胆汁はもう十分あります!」

と伝えることで、胆汁の作りすぎを防いでいます。

しかしこの仕組みがうまく働かないと、胆汁が過剰に作られてしまいます。

その結果、腸で吸収しきれなくなり、胆汁が大腸に流れ込んで下痢を起こします。

このFGF19の働きを阻害する原因はいくつかあるのですが、その1つに「R. gnavus」が挙げられます。そう、ここでもR. gnavusが悪さをするのです。

R. gnavusは、バイオフィルムを形成します。
通常、胆汁酸は回腸の細胞内にあるFXRという受容体に結合することでFGF19の合成を促しますが、このバイオフィルムがバリアとなることで胆汁酸が細胞に到達できず、FGF19の産生スイッチが入らなくなるのです。

※このバイオフィルムは非常に厄介な物質で、SIBOやIBS治療を困難にする原因の1つとされています。

Ruminococcus gnavusを調べる

当院が行っている腸内細菌叢検査「KIRIN MicroBiome」では、この菌が過剰に増殖していないかを調べることができます。

MicroBiome report

※サンプルレポートのダウンロードはこちら

 

腸内細菌の乱れも関係している

胆汁酸性下痢には、腸内細菌のバランスの乱れ(ディスバイオシス)
も関係していることがわかっています。

腸内細菌は胆汁酸を分解したり変換したりする働きがあります。
健康な腸では、胆汁酸は腸内細菌によって、刺激の弱い形に変換されます。

しかし腸内細菌のバランスが崩れると、この変換がうまくいかなくなり、
その結果、刺激の強い胆汁酸が増えて下痢を引き起こすことがあります。

また、ディスバイオシスにより、「FGF19の働きを邪魔する胆汁酸」が増える場合があります。

たとえば、GCA、GCDCA、UDCA、GUDCAといった胆汁酸が増えるとFGF19がうまく作られなくなり、その結果、胆汁酸が過剰に産生され、胆汁酸性下痢につながります。

 

FGF19の働きを阻害する胆汁酸を調べる

当院が行っている腸内細菌叢検査「GI-MAP StoolOMX」では、胆汁酸の状況を細かく調べることができ、胆汁酸吸収不良や胆汁酸性下痢に関する情報を得ることができます。
黄色の胆汁酸はFGF19の働きを阻害するとされる胆汁酸です。



※掲載している検査結果は一見すると数値の羅列ですが、胆汁酸代謝や腸内細菌環境の知識を踏まえて解析することで、腸内環境の状態を読み取る重要な情報となります。

当院では腸内環境から胆汁酸性下痢の治療に取り組んでいます

胆汁酸性下痢は、単に「胆汁が多い」という問題だけではなく、

  • 腸内細菌の乱れ(ディスバイオシス)
  • 小腸内細菌異常増殖症(SIBO)
  • 腸粘膜のバイオフィルム

などが複雑に関係している可能性があります。

近年の研究では、腸内に形成されるバイオフィルム(細菌の膜状構造)が胆汁酸の吸収を妨げたり、腸内細菌のバランスを崩すことで、胆汁酸代謝の異常につながる可能性が指摘されています。

当院ではこれまでSIBO(小腸内細菌増殖症)の治療を多数経験しており、

腸内フローラの乱れ(ディスバイオシス)、バイオフィルムの形成、胆汁酸代謝の異常といった腸内環境の問題を総合的に評価しながら治療を行っています。

長年続く下痢の中には、原因がわかれば改善できるものも少なくありません。

「IBSと言われたが治らない」

「慢性的な下痢が続いている」

または、保険診療にて「胆汁酸吸着剤(コレスチラミンなど)」を処方されたけどよくならない

といったお悩みがある方は、一度ご相談ください。


注:この診療は『完全自費』です。


 

 

 

 

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