逆流性食道炎の治療では、 主に、胃酸を抑える薬(PPI:プロトンポンプ阻害薬)が使われます。
しかし患者さんの中には
- PPIをきちんと服用しているのに症状が改善しない
- 胃の不快感は抑えられても、逆流感や違和感が残る
- 服用を続けるほど、腹部の張りや不調が増えてくる
といった方も少なくありません。
このような場合、胃酸過多ではなく、むしろ「胃酸が少ない」ことが逆流の原因かもしれません。
逆流性食道炎は「胃酸過多」だけが原因ではない
逆流性食道炎で重要なのは、胃酸の量だけではありません。
- 下部食道括約筋(LES)が適切に閉じているか
- 腹圧が過剰にかかっていないか
- 胃や腸の消化機能が保たれているか
といった消化管全体の機能バランスが深く関与しています。
逆流性食道炎患者を対象としたある研究によると、
中等度~重症患者では、軽症患者に比べてLESの機械的機能が有意に低下していたことに加え、胃内からの食物排出時間が遅延していました[1]。
つまり、LESがきちんと閉じた状態を維持し、食物が胃内に停滞しない環境が重要であるということです。

胃酸低下が逆流を引き起こすメカニズム
胃酸には、食事とともに入ってくる細菌を殺菌する重要な役割があります。
しかし胃酸が低下すると
• 細菌が十分に殺菌されない
• 細菌が生きたまま小腸に流れ込む
ということが起こります。
この状態が、SIBO(小腸内細菌異常増殖症) の発症リスクを高めると考えられています。
② 消化不全と小腸内細菌異常増殖(SIBO) → ガス産生
胃酸が不足すると、特に タンパク質や脂質の消化が不十分になります。
未消化の食べ物は、小腸内で細菌のエサとなり
• 腸内細菌の過剰増殖
• ガスの産生増加
• 腹部膨満感・張り
を引き起こします。

【参考メモ!】
産生されるガスでも、特にメタンガス(このタイプのSIBOをIMOと呼ぶ)は腸管の運動を抑制する作用があります。
また、水素型のSIBOでは、胃に近い小腸でガスが発生するため、これも逆流性食道炎のリスクを高めると考えられます。
さらに、硫化水素型のSIBOでは、硫化水素が下部食道括約筋を弛緩させることもわかっています。
③ 腹圧上昇により下部食道括約筋が開く
腸内で産生されたガスにより腹圧が上昇すると、
下部食道括約筋(LES)が物理的に押し開かれやすくなります。
その結果
• 胃内容物が逆流しやすくなる
• 胃酸の量が多くなくても症状が出る
という状態が起こります。

④ 胃酸低下そのものがLESを閉じにくくする
胃酸は、消化管の神経反射や局所的な化学刺激を通じて、下部食道括約筋(LES)の緊張維持に関与していると考えられています。
具体的には、胃内の酸性度(pH)が維持されていると、LESも閉じた状態を維持します。
しかし、以下のような要因で胃酸が低下すると
- 加齢
- 栄養不足
- ピロリ菌感染
- 萎縮性胃炎
- PPIの長期使用
胃内のpHが十分に下がらず、
LESが緩みやすい状態になってしまいます。
ちなみに、下部食道括約筋(LES)が最も強く閉じるのはpH3.0とする研究と1.0とする研究があります[2][3]。
いずれにしても、胃内が十分に酸性に保たれていないとLESがしっかり閉じなくなるのです。
低胃酸によるその他の影響
■栄養素の吸収を阻害する
低胃酸はカルシウム、マグネシウム、鉄、ビタミンB12など栄養素の吸収を阻害します。
特にマグネシウムやカルシウムの不足は、筋肉の収縮に影響を与えます。
LESは平滑筋であるため、これらのミネラルバランスが崩れることで、括約筋の緊張維持がさらに困難になるという二次的な悪循環が生じます 。
■食物が胃内で停滞しやすくなる
低胃酸は、幽門(胃の出口)の機能にも影響を与えます。
胃内の内容物が十分に酸性化されないと、十二指腸への排出が遅延することがわかっています。
食物が胃に長く留まるほど、逆流の機会は増加します。
■タンパク質の消化不良
タンパク質を分解する酵素である「ペプシン」の活性はpH 2.0以下で最大となり、pH 1.8〜2.3で最適化されます。
酸が不足するとタンパク質が十分に分解されず、消化が悪化します。
消化不良は、食物の胃内停滞時間を延長させるほか、SIBOのリスクを増大させます。
空腹時の正常な胃内pHは、2.0未満とされています。
胃内pHは、食事を摂ると4.0~5.0くらいまで上昇します。
そこで健康な胃は酸を分泌し、pHを低下させます。
しかし、この酸性に戻すまでの時間は年齢によって大きく異なることが、ある研究によって明らかになっています[4]。
- 若年者(平均25歳): 食事後、pHが3.0まで戻るのにかかる時間は平均「42分」。
- 高齢者(平均71歳): pHが3.0まで戻るのに平均「89分」を要し、若年者の2倍以上の時間がかかる。
さらに、高齢者の16.4%が、食事後4時間が経過してもpH2.0に戻らない。
実は、空腹時のpH値は、若者でも高齢者でもそれほど違いがないことがわかっていますが、重要なのは、食事を摂った際に、どれだけ速く強酸性に戻るか、といった点です。
栄養解析検査で萎縮性胃炎(低胃酸)の有無を推測できる
当院で行っている栄養解析検査では、測定項目に「ペプシノーゲン」があります。
このペプシノーゲン値から
- 萎縮性胃炎の可能性
- 低胃酸の可能性
を推測することができ、「逆流性食道炎の背景に低胃酸が関与していないか」 を調べることができます。
PPIを使っても改善しない方へ
PPIは、胃酸過多が主な原因の場合には有効な治療です。
しかし
- 一定期間使用しても症状が改善しない
- 腹部膨満感や便通異常を伴う
といった場合には、低胃酸による消化不良やSIBOによって症状が悪化している可能性があります。
『胃酸を抑え続けること自体が症状の改善を妨げている』かもしれません。
注意!
また、人によっては、胃の上部に「酸がたまりやすい場所(acid pocket)」が形成されやすいことが知られています。このような場合にも、胃酸の量を抑える目的でPPIを使用します。
29件の研究を対象としたメタ解析によると、胃酸を抑える薬(PPI)を使用している人では、小腸内細菌異常増殖症(SIBO)がみられる割合が約36.8%で、PPIを使用していない人の約19.9%と比べて、およそ2.1倍多いことが分かりました。
また、PPIの使用期間が長くなるほどSIBOがみられる人が増え、統計解析では、PPIを1ヵ月長く使用するごとに、SIBOのある人の割合が約4.3%高くなる傾向が示されています[5]。
この研究から判明した期間別の発症リスクは以下のとおりです。
| PPI使用期間 | SIBOのなりやすさ |
|---|---|
| 1ヵ月未満 | 約1.7倍 |
| 1~6ヵ月 | 約4.0倍 |
| 6ヵ月以上 | 約4.2倍 |
※この29件の中には、日本人による研究が1件(2015年)含まれており、この研究ではSIBOとPPIの関連がみられなかったとされています。ただし、この研究では、水素のみを評価しており、メタン型および硫化水素型のSIBOの評価はされていません。
当院のアプローチ:栄養療法と機能性医学

当院では、自費診療であるSIBO外来・栄養療法外来を通じて
- 栄養状態
- 消化吸収機能
- 腸内環境の状態
を総合的に評価して、SIBOや栄養不良による逆流性食道炎の治療を行っています。
特に膨満感や便通異常といった腹部にも症状がある方はSIBO外来をご検討ください。
参考元
[1]Cogliandolo A, Gulino FM, Pustorino S, Migliorato D, Bottari M, Saitta FP, Micali B. Ruolo del tono sfinteriale esofageo e della motilità gastrica sull'entità dell'esofagite da reflusso [The role of esophageal sphincter tonus and of gastric motility in the extent of reflux esophagitis]. Minerva Chir. 1992 Jan;47(1-2):11-7. Italian. PMID: 1553047.
[2]Giles GR, Humphries C, Mason MC, Clark CG. Effect of pH changes on the cardiac sphincter. Gut. 1969 Oct;10(10):852-6. doi: 10.1136/gut.10.10.852. PMID: 5350111; PMCID: PMC1552999.
[3]Kaye MD. On the relationship between gastric pH and pressure in the normal human lower oesophageal sphincter. Gut. 1979 Jan;20(1):59-63. doi: 10.1136/gut.20.1.59. PMID: 33104; PMCID: PMC1418956.
[4]Guilliams TG, Drake LE. Meal-Time Supplementation with Betaine HCl for Functional Hypochlorhydria: What is the Evidence? Integr Med (Encinitas). 2020 Feb;19(1):32-36. PMID: 32549862; PMCID: PMC7238915.
[5]Khurmatullina AR, Andreev DN, Kucheryavyy YA, Sokolov FS, Beliy PA, Zaborovskiy AV, Maev IV. The Duration of Proton Pump Inhibitor Therapy and the Risk of Small Intestinal Bacterial Overgrowth: A Systematic Review and Meta-Analysis. J Clin Med. 2025 Jul 3;14(13):4702. doi: 10.3390/jcm14134702. PMID: 40649078; PMCID: PMC12250812.
